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第035-2話 身代わり効果

Penulis: 百舌巌
last update Terakhir Diperbarui: 2025-02-09 09:24:35

 次にディミトリは大串を銃床で殴りつけた。大串の鼻から鼻血が吹き出し始めた。

「テメエは何故俺を嵌めた?」

 ディミトリは銃を大串に向けながら言った。

「いえ、あの売人の後輩がオタク風の奴に喧嘩で負けたと聞いたものですから……」

「そのオタク風ってのは俺のことか?」

 銃を大串の頬にゴリゴリと押し当てながら尋ねる。

「ええ……」

「俺は『ハイ』と言えと注意したはずだ……」

「ハイッ!」

 大串たちは、ディミトリが何らかの組織に狙われているのは知らない。

 きっと、売人の後輩とやらと揉めた事であろうと思っていたらしかった。それだけに銃が出てきたのは驚愕の事態だったようだ。

「ソッチだったのか…… クソ共め……」

 本当なのかどうかは、今は確かめることが出来ない。今は腹の中にある銃弾をどうにかしないといけないのだ。

「明日までに同じ金額を用意しろ……」

「え、そんなの無理です……」

ドンッ

 彼の股間スレスレに銃弾を送り込んだ。シートが焦げる匂いが車内に充満していく。

 大串は顔を引きつらせてしまった。

「お前の予定なんざ知った事か、この兄ちゃんでも何でも使って用意させろ!」

 ディミトリは運転する田口の方を顎で示しながら怒鳴りつけた。

「あうぅぅぅ……」

 しかし、ディミトリは呻き声を上げてしまっている。

 自分の怒鳴り声が腹に響いたようだ。再び腹を押さえていた。

「あの、何に使うので……」

 田口が恐る恐る尋ねて来た。

「医者に金を握らせるに決まってるだろう……」

 ディミトリは脇腹を押さえている。押さえていても血が出てきているのが分かるくらいだ。

 車は友月橋に到着した。

 ディミトリが車を降りる間際に警告を全員に言った。

「誰にも喋るんじゃねぇぞ……」

「はい……」

「もし、警察が俺の周りをウロウロしたら、お前らの母親を真っ先に殺しに行くからな?」

「はい……」

 車に乗っていた四人は何度も頷いていた。

 母親が嫌いな子供は滅多にいない。それを自分の身代わりに殺すと言う脅しは結構効果があるのだ。

 そして、ディミトリは実行するつもりだった。裏切り者は許さないのが鉄則だからだ。

「その間抜けな頭に叩き込んでおけ……」

「はい……」

「俺が堪えるのはここまでだ、次はお前もお前の家族も仲良く海底に沈むことになる」

「はい……」

「俺がどういう風に容赦しないかは、そこ
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    中学校。 中国のケリアンから偽造パスポートが届くのには暫く時間があった。彼は二週間前後になると言っていた。 その間は大人しく生活をしていようとディミトリは考えていた。恐らく、外国に行ってしまうと、二度と日本には帰ってこられない。なので、祖母に何か孝行をして置こうかと考えているのだった。 「お前、夏休み明けから変わったな……」 学校に登校すると四宮にそう言われた。 確かに少し筋肉が付いているのが自分でも分かるぐらいにはなった。後、体中傷だらけだ。「ああ、筋肉トレーニングしてるからね……」「へぇ……」 最初に学校にやって来た時には、玄関で履物を履き替えるのが分からずに土足で上がろうとして怒られた。 次は自分のクラスが分からずウロウロしている所を、四宮に声を掛けられたのだ。「四宮もやってみろよ。 飯が美味くなるぜ」 そう言ってディミトリは笑った。実は柔道場での師範同士の会話を丸パクリしてるだけだ。 自分は食事が旨いという感覚が良く分からない。味覚が脳に記憶されている物と違っているらしく旨いとは思えないせいだ。 もっとも、基本的に祖母が出してきたものは残らず食べるようにはしている。残すと悲しそうな顔を見せるのが嫌だからだ。 四宮と会話をしながら教室に入ると大串が近寄って来た。「すまん…… 若森に相談が有るんだ……」「ああ、屋上に行こうか……」 朝のホームルームまでは時間が有る。二人は屋上に向かった。「ん? 閉まっているのか……」 ディミトリが屋上に出る扉に手を掛けていると鍵がかかっているのに気がついた。まだ、施錠が外れる時間では無かったのだろう。「ああ、ここで良いよ」 大串がそういうのでディミトリは屋上に出るのを諦めた。天気が良さげだったので少しだけ残念だった。 一方の大串は深刻そうな顔をしていた。「相談って何よ?」「田口の兄貴がいるだろ?」「ああ……」「面倒事を起こして家に引きこもっているらしいんだ……」「ん?」「廃墟になったマンションに、田口の兄貴が銅線を盗みに入ったんだよ」(相変わらずにロクでなしだな……) ディミトリは田口兄の変わらなさに笑ってしまった。「その時に鞄を一つ拾ったらしい」(おお! 胡散臭さ満杯だな) 廃墟に落ちているものなど、碌な物では無いに決まっている。「中身は何なのよ?」「拳

  • クラックコア   第081-2話 符号コード

     ディミトリの目が冷たく光り、手に持った銃をアオイに向けた。その銃口には音を消すための減音器が装着されている。 敵には一切の情けを見せないのを知っているアオイは銃口の先を見つめた。今にも銃弾が出てくる気がしたからだ。「それじゃあ、コレは偽物なのね……」 アオイはバッグから外付けハードディスクを取り出して見せた。「ああ、ソレは俺のデカパイねーちゃんコレクションだ」 そう言ってディミトリは自分のポケットから外付けハードディスクを取り出して見せた。大きさはB6サイズのシステム手帳程だ。 コレにも自分が存在しているかと思うと、背中がむず痒くなるのを覚えた。「コイツが引き出しに入っていた本物だろう……」 その筐体の外側に『Q-UCA』と文字が書かれた白いテープが貼られている。マジックでなぐり書きされた物では無いので本物っぽく見えている。「ちゃんと符号コードを調べたの?」「何だソレ?」「真贋を確かめる為の符号コードが付加されているのよ」「そうか…… じゃあ、調べてみてくれ」 ディミトリは手にした外付けハードディスクをアオイに渡した。アオイは素直に受け取った。出し抜けるチャンスが或るかもと考えていたのかも知れない。 彼女は接続コードをハードディスクに差し込んで、持ってきたバームトップのパソコンに繋いだ。「暗号キーは128ビットの符号で出来ていて、そのコードが一致していると本物と判定されるの……」 真贋を判定するアプリケーションを動作させながらアオイが説明した。「んーーー…… 日本語で頼む……」「偽物が作りにくいって事」「なる程……」 専門用語を並べた建てられたディミトリは根を上げてしまった。落ち着いて聞けば理解できるのだろうが、横文字を並べたがる専門家の説明は分かり難い物だ。「コレは本物みたいね」 パソコンを覗いていたアオイが返事をしてきた。どうやら符号とやらが合致して彼女が探していたものらしいと分かったのだ。「そうか……」 突然、くぐもった音が室内に響き、机に有った外付けハードディスクに穴が空いていく。やがて、様々な細かい部品を撒き散らしながら床に落ちていった。「ちょっと何をするのよ!」 いきなりの行為にアオイがディミトリに向かって抗議した。折角、忍び込んで目当てのものを探しだしたのに目の前で破壊されたので当たり前であろう。

  • クラックコア   第081-1話 女の正体

    鶴ケ崎博士の研究所。 研究所と言っても洋風の屋敷だった。都内から少し離れた都市に広めの一軒家だ。 鶴ケ崎博士はこの屋敷を住居兼研究所としているのだった。 主要な駅から離れた場所にある屋敷の周りは、人通りも無く街灯だけが唯一の明かりであった。 そんな閑散とした通りを白い自動車がゆっくりと通り過ぎていく。まるで、屋敷の中を伺うかのような動きには、野良猫ですら警戒の目を向けている。 屋敷を通り過ぎ、街灯の明かりが途切れる辺りで白い車は停車した。車を運転していた人物は、車のエンジンを切って静寂の中に何かしらの動きが無いかを探るように辺りを伺っていた。 運転手は黒ずくめの格好をしていた。だが、胸の膨らみは隠せない。女性であろう事は外観で判別が出来た。 彼女は壁を軽々と乗り越え、屋敷の外壁に張り付いた。そして、周りを伺う素振りも見せずに台所の扉に取り付いた。 玄関に向かわなかったのは防犯装置が付いているのを知っているからだろう。 台所に扉を自前の解錠用キットで開けた彼女は台所に有った防犯装置を解除した。こうすると家人が家に居る事になって、警備会社に通報が行かなくなるのだ。彼女は防犯装置に詳しいのだろう。鮮やかな手口であった。 博士は独身だったのか、研究所の中は無人であった。 屋敷に侵入できた彼女は迷わずに二階に向かっていった。二階に博士の研究室があるからだ。 室内に入って中を見回す。様々な専門書が壁一面を埋め尽くしている。 部屋の中央の窓よりの部分に机があった。机の上を懐中電灯で照らし出す。机の上にはノートパソコンが一台あった。 ノートパソコンを開けて中を見たが、目的の物が見つからなかったのかため息を付いていた。そして、机の上を懐中電灯で照らして何かを探している。 やがて、引き出しを開けると外付けのハードディスクがあった。表にガムテープが貼られていて、マジックで『Q-UCA』と乱暴に書かれている。「……」 彼女はそれを手にとってシゲシゲと眺めた。やがて、彼女はそれを自分のバッグの中にしまい込んだ。目的のものを見つけたのだ。 すると、部屋の片隅で何か物音がして部屋の明かりが点いた。「!」 彼女は物音がした方角に厳しい目を向け身構えた。「来ると思ってたよ……」 暗闇から一人の狐の覆面を被った男が進み出て声を掛けて来た。彼女はいきなりの展

  • クラックコア   第080-2話 色々な方面の人気者

    『ワカモリさん。 どうしましたか?』『急で申し訳ないけど、偽造パスポートを都合して貰えないか?』『ワカモリさんは日本人ですから、日本のパスポートをお持ちになった方が色々と捗りますよ?』 日本のパスポートの信頼度は高い。他の国のパスポートでは入国管理の時に念入りに質問されるが、日本のパスポートの場合には簡単な質問のみの場合が多いのだ。 スネに傷を持つ犯罪者たちには垂涎の的なのだ。『ワカモリのパスポートは使えないんですよ』『え?』『色々な方面に人気者なんでね』『ええ確かに……』 ケリアンが苦笑を漏らしていた。ディミトリが言う人気者の意味を良く知っているからだ。 公安警察の剣崎が自ら乗り出してきた以上は、ワカモリタダヤスは逃亡防止の意味で手配されていると考えていた。『分かりました。 少しお時間をください』『どの位かかりますか?』『一ヶ月……』 ディミトリが依頼しているのは偽造パスポートだ。作成するには色々と下準備が必要なものだ。それには時間もお金もかかる物なのだ。『もう少し早くお願いします。 厄介な所に目を付けられているんですよ』『警察ですか?』『公安の方ですね』『分かりました……』 中国にも公安警察は存在する。そこは欧米などの諜報機関に相当する部署だ。ディミトリが傭兵だった時にも、噂話は良く耳にしていたものだ。 荒っぽい仕事をするので海外での評判は悪かったのだ。 日本には諜報機関は存在しない事になっている。だが、日本の公安警察がそれに相当する組織と見なされていた。 もっとも、国内に居る犯罪組織や日本に敵対する組織の監視が主な任務で、海外の諜報機関のように非合法活動で工作などしたりはしない事にはなっている。だが、表があれば裏が有るように、ディミトリはそんな話は信用していなかった。 ディミトリが『公安警察』に目を付けられていると聞いたケリアンは、ディミトリが急ぐ理由が分かったようだった。『では、二週間位見ておいてください』 少し考えていたのか間をあけてケリアンが返事してきた。 偽造パスポートが出来たら部下に届けさせるとも言っていた。ケリアンは香港に居るらしい。日本国内だと身の危険を感じるのだそうだ。『しかし、人気者だとしたら日本から出国する際に、身元の照会でバレるかも知れませんよ?』 日本には顔認証による人物照会を行

  • クラックコア   第080-1話 手駒の思惑

    自宅。 ディミトリは病院から帰宅してから部屋に籠もったままだった。 ベッドに転がって天井を睨みつけながらこれからの事を考えていた。 先日の剣崎とのやり取りで気になったことがあったのだ。 一番はヘリコプターを操縦する姿を撮影されていた事だ。 これは、常に張り付きで見張られていた事を示している。きっと、ジャンの倉庫に連れ込まれてひと暴れしたのも知っているのだろう。『人を撃った銃をいつまでも持っているもんじゃないよ』 剣崎はそう言ってディミトリが持つ銃を持っていった。(そう言えば、あれって弾が残っていなかったじゃないか……) 鞄の底から銃を見つけた時に、弾倉を確認していたのを思い出していた。その後、剣崎がもったいぶって登場したのだ。 あれは狙撃手が銃を手に持ったのを確認していたのだろう。つまり、ディミトリが銃と弾倉を触ったのを監視していたのだ。(指紋付きの銃を持っていかれたんじゃ言い訳が出来ねぇじゃねぇか……) 恐らく、倉庫からジャンの手下の遺体を回収済みだろう。遺体の幾つかはあの銃で撃ったものだ。線条痕と指紋付きの銃を持っていかれたらディミトリが犯人だと証明できてしまう。(こっちの弱みを握って何をさせるするつもりなんだよ……) 剣崎は『公安警察』だと言っていた。自分の知識の範囲内では『日本の諜報機関』との認識だった。(俺の家を見張っていたのも剣崎だったのかも知れないな……) オレオレ詐欺グループのアジトを襲った時に、何故か警察のガサ入れが有った。あれは剣崎の指示でやらせたのかも知れない。 それにパチンコ店の駐車場で暴れた時も、店の防犯カメラがディミトリを映していないも不思議だった。それも、剣崎が『故障』させた可能性が高い。ディミトリの存在を秘匿して置きたいのだろう。(金には興味無さげだったな……) 何度目かの寝返りをうって剣崎との会話を思い出していた。一兆円の金を『端金』と言っていた。 本心かどうかは不明だが、普通の奴とは違う考えを持っているようだ。(まあ、確かに人を殺めるのに躊躇いが無い奴は、手駒にしておくと便利だわな……) 便利な使い捨ての駒が手に入ったと剣崎は考えているのかも知れない。(今どき殺し屋でも無いだろうに……) どっちにしろ、まともに扱われるとは思えない。(人の目を気にしながら歩きたく無いもんだな……)

  • クラックコア   第079-2話 オレンジ色のドットポイント

    「一つは中国系で日本のチャイニーズマフィアと繋がりがある……」(ジャンの所か……)「一つはロシア系で日本の半グレたちと繋がりがある……」(チャイカの所だな……) ディミトリは何も反論せずに剣崎の話を聞いていた。「全員、君が握っている情報に彼らは興味があるそうなんだがな?」「さあ、何の話だかね……」 麻薬密売組織の資金の事であるのは分かってはいるがトボけた。どう答えても面倒事になるのは分かっているからだ。「少なくとも君を巡って二つの組織が動いている」「中年のおっさんにモテるんだよ。 俺は……」「まあ、特殊な性癖を持つ人には魅力的なのかも知れないが私には分からんよ」「そいつらが探しているのが俺だと言いたいんで?」「他に誰がいるんだ?」 剣崎はディミトリの話など興味ないように続けた。「東京の端っこに住んでる中学生が握ってる情報なんて、近所のゲーセンに入っている機種は何かぐらいだぜ?」「それはどうかね……」「俺はその辺に転がっている平凡な中学生の小僧ですよ?」「それは君にしか分からない事かもしれないね…… 若森くん」「あんた……」「前に来た刑事たちとは違う匂いがするね……」「君と同類の匂いでもするのかい?」「……」「君の言う平凡な中学生ってのは、ヘリコプターを操縦できるのかい?」 剣崎が写真を一枚投げて寄越す。ディミトリは受け取らずに落ちるに任せた。足元に白黒写真が落ちた。 そこにはヘリコプターを操縦する若森忠恭が写り込んでいた。「ヘリの操縦の特殊性は理解しているつもりだ。 機体を五センチ浮かせて安定させるのに半年は掛かるんだそうだ」「……」「最近の中学生はヘリの操縦までするのかね?」「保健体育で習ったのさ」 ディミトリは負けじと言い返した。「それともディミトリ・ゴヴァノフと呼んだ方が早いかな?」「……」 ディミトリの眼付が険しくなった。部屋中にディミトリの殺意が充満していくようだ。「あんたも麻薬組織の金が目当てか?」「……」 ディミトリは銃を引き抜き剣崎に向けた。もちろん殺すつもりだった。だが、引き金を引こうとした時にある事に気がついた。 オレンジ色のドットポイントが剣崎の額に灯っているのだ。だが、それは直ぐに消えた。「クソがっ……」 ディミトリの経験上、ドットポイントが意味するのは一つだけだ。

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